或る閉幕

ラーメンズ小林賢太郎パフォーマーの引退を発表した。執筆活動は続けるものの、少なくとも「ラーメンズ」としての活動にはほぼピリオドが打たれた格好になり、長い年月、もしかしたら、もしかしたらまだあるんじゃないか、ラーメンズとして舞台に立つ日が来るんじゃないかと、いちラーメンズファンとして願っていた日々にも終止符が打たれてしまった。当時はど真ん中とは思ってなかったけれど、今思えばかなりど真ん中に、オンバトラーメンズ観てそのコントにハマって、そこからコントが作る魅力的な世界が大好きになっていった。単独公演を最初はVHS、途中からはDVDで全部観て、DVD-BOXも買った。派生してバナナマンにもハマり、君の席も観た。いつからか「ラーメンズみたいなネタをやりたい」と思うようになり、上京して養成所に入った。ラーメンズを意識した長尺のネタを作り「ライブ向きじゃない」と言われた。後に大揉めして養成所を抜ける要因になる相方に単独の映像を見せたりもした。結局お笑いの道は早々に諦めてしまったけれど、ラーメンズのコントが、小林賢太郎の脚本の力が無ければ東京に来るきっかけが無かったかもしれないと思うと、本当に人生に影響を与えてくれた人だと思う。ポツネンやK.K.P.までは追っていたけれど、近年のカジャラとして活動は追えていなくて、心のどこかでやはり「ラーメンズ」があったのかもしれない。ラーメンズとしての公演をいつか生きているうちに観たいと思っていたけれど、叶わない夢となった。ラーメンズは最後まで「箱」の中の存在で終わってしまった。

 


ラーメンズ『鯨』より「器用で不器用な男と不器用で器用な男の話」


ファンの間ではかなり人気のコントだけど「器用で不器用な男と不器用で器用な男の話」が大好きで、これは器用で仕事が出来て社会的には不十分なく暮らせているけれどコミュニケーションに少し難がある男と、不器用だけど芸術肌で好きなことを昔から貫いている男のデコボコな友情を描いた話で、基本大きな笑いとしての本筋(設定的な面白さ、フリやオチ)はないけれど、小林の会話の下手さなどの細かい動きや片桐のツッコミで「喜劇」まで押し上げててすごく脚本として好きだし、この2人は小林賢太郎が「自分と片桐」を意識して描いたような節があって、そこ含めてさらに好きだ。クリエーターとして、またパフォーマーとして「器用」に全てをこなしてきた小林賢太郎と、彼から見た「不器用」そうに見えるけれど、人間として、表現者として、他の誰も出来ない存在感を放つ片桐仁という構図が、コントを見ていると浮かんできて、そこに、数々の作品を世に残してきた小林賢太郎の人間味が見えて愛おしくなる。だから、長い年月、ラーメンズとしての姿を、あるいは勝手ながら求めてきたんだけれど、その妄想に今日ついに幕が引かれた。パフォーマーとしての引退であり、これからも作品を書き続けることは続けるとのことだし、ラーメンズとしての作品は映像でこの先も残り続ける(近年コントを動画で一気にあげたのも、今考えると終わりの始まりだったのかもしれない)から、ラーメンズのコントは消えないかもしれないけれど、彼らが新しく「箱」に息を吹き込むことは無くなると思うと、やはり寂しい。実は全てが冗談で、嘘みたいにまたコントが始まってくれる。そんな都合の良い条例が出ないものかと、まだ心の奥の奥で思ってしまう自分が、ちょっと哀しい。ラーメンズファンとして、小林賢太郎片桐仁、両者の今後の活躍を応援していきます。

 


ラーメンズ『TEXT』より「条例」