熱狂の陰

何もない無の時間を競馬の動画で埋めるだけになってきたので、何かせねばと思い、映画を観た。映画を観る、が今の正解かは分からなかったけれど、映画を観た。

 
元は高校演劇の優秀作品を映画化した作品で、甲子園に応援に来た高校生たちを主人公にして、会話劇を軸にアルプススタンドという“中心”に入れなかった「すみの方」の人々にスポットライトを当て、彼ら彼女らが少しずつ自分が諦めていた青春を思い出していく物語。元の脚本を大事にしているのか、球場が舞台なのに野球のシーンは一切描かず、ほとんど登場人物たちの会話で進んでいくのが特徴的で、会話だけで見せる本の力や構成の上手さで飽きずに最後まで見れて面白かった。ストーリーとしても、レギュラーになれなくて部活を辞めた藤野、演劇の大会に部員の病欠で出られなかった安田と、その原因になった田宮、人付き合いが苦手で勉強だけ頑張って来たのに最近学年1位から転落した宮下。「しょうがない」と色んなものを諦めたり妥協したりの高校生活を送って来た主人公4人が、最初は全然やる気のなかった応援を通して熱を持ち、本当は諦めたくないと思っている自分に気付くことで、やがて声を強めていく様がグッと来て良かった。おそらく映画化することで足したんだろうなと感じるシーンもあって、本来の魅力は舞台にあるんだろうなとも思ったので、舞台での形も観てみたくなった。物語は最後、大きい救いがあるわけじゃなく、4人はいわばきっかけを貰うくらいで終わるんだけれど、自分たちが“中心”と勝手に括って、関係無いと決めつけた舞台に自分も立っている。どこか「自分だけ」と悩んでいたものを、真ん中の人だってそれぞれ持っている。広いアルプススタンドの、その隅の隅だとしても、席はあって、立ち上がれば主役になる。声を出すか、引っ込めるか。その違いで人生は驚くほど姿を変えるのかもしれない。